トレーニングプログラムについてのセミナーに参加してきました。
なぜトレーニングをするのか?
競技をやっていると練習をたくさんやってさえいればパフォーマンスは上がっていく、トレーニングは大切だと言ってもトレーニングでつけた筋肉は競技に使えない、筋トレをすると身体が硬くなるというイメージはまだまだ強いのではないかと思います。
トレーニングをする目的は練習では得られない、筋力や持久力といった“体力”を『安全に効率良く、最大限に』向上させることです。
トレーニングをすることで直接的に競技パフォーマンスをアップさせる効果はなくても、“傷害リスクの低下”、“競技力向上のポテンシャルをアップ”という効果が期待できます。
実際に筋トレは傷害数を3分の1まで減少させることができるという研究結果もあるそうです。
競技力向上のポテンシャルアップさせるということに関しては、『トレーニング効果の転移』というものがポイントになってきます。
単純に筋力を向上させるだけでは筋力を向上させない時の方が良いパフォーマンスを発揮することができます。
「筋トレは必要ない」と言われるのはこういったことが理由だと思われますが、トレーニングによって向上させた体力をパフォーマンスに繋げるためには使いこなす“技術”が必要になってきます。
その技術を向上させるのが『練習』です。
つまり、トレーニングで体力レベルをアップさせながら、しっかり練習もやらないとパフォーマンスは上がらないということです。
そして体力レベルが高ければ練習をしっかり積んでも疲労が溜まらない、ケガの心配も少なくなるので技術を向上させられるということです。
トレーニングは手段であって目的ではない
トレーニングは身体に刺激を与えて反応を引き出すという手段です。
筋トレなら筋肉に刺激を与えて筋力や筋量を向上させるという反応引き出し、有酸素運動は心臓血管系に刺激を与えて持久力の向上といった反応を引き出すというものです。
最近では様々なトレーニング方法がありますが、これさえやっておけば万事O.Kというものはありませんから、相手の目的、体力レベルに合わせてどのようなトレーニングをやらせるかというアイデア、工夫が必要です。
競技のためのトレーニングというと多いのはその競技の動作に似ているトレーニングをすれば競技力向上に繋がるというものです。
ゴルフなら飛距離を伸ばすために腰を回転させるようなもの、捻りを入れたエクササイズをやったり、野球の投手が腕の振りを速くするために投球動作に近い動きをチューブを使ってやったりというものなどがそうですが、それらをやったところで競技力向上に直結するという根拠はないそうです。
トレーニングの原則には『特異性の原則』というものがあります。
そもそもの意味はトレーニングで行ったことに対する適応を引き出すということ(重い重量のスクワットができるようになってもスクワットの動作が力強くなるだけで速く走れるようになったりジャンプ力がアップするという直接効果はない)なのですが、最近では見た目が似ているエクササイズをやればその動きが力強くできるという風に誤解されて捉えられてしまっています。
見た目が似ている動作に負荷をかけても力を発揮する方向、力を出すタイミングを間違えてしまえば競技力そのものの低下に繋がってしまいます。
トレーニングは『補強運動』と言われますが、補強運動は練習ではできないものを補うことが目的です。
そこでわざわざ練習でもできるようなことをする意味はありません。
補強だからこそできること(筋力向上、持久力の向上などベースの身体作り)をやれば良いということです。
トレーニングのバリエーションの考え方
トレーニングには漸進性過負荷の原則というものがあります。
体力レベルに合わせて少しずつ負荷を増やしていきましょうということです。
いつまでも同じトレーニングをしていてはせっかく向上した体力も刺激が弱くなるためにまた下がってしまう可能性もあるということです。
精神的、肉体的なマンネリを防ぐためにバリエーションというものが出てくるわけですが、エクササイズ・負荷・回数・セット数・休息時間など様々なやり方があります。
バリエーションがたくさんあると継続的に適応が引き出せたり、オーバートレーニングを防ぐことができるというメリットがありますが、適応があまり起こらない、新しい刺激によって筋肉痛が起こる、エクササイズを覚える時間が必要になりその間のトレーニング刺激は小さくなってしまうというデメリットもあります。
大切なのはそういったメリット、デメリットをきちんと理解した上でトレーニングの目的、指導するチーム、選手のレベルといったものに合わせてアレンジ、工夫するということです。
競技レベルとトレーニング歴
トレーニングプログラムを作成する上で大切なことにトレーニング歴というものもあります。
アスリートというとトップレベルのものができると思ってしまいがちですが、必ずしもそうではありません。
日本を代表する投手の1人でもある広島カープの前田健太投手も身体が硬くなると思ってバーベルを使ったウェイトトレーニングを高校時代からプロに入ってからも一切やっていなかったそうですが、コンディショニングの大切さを感じるようになり最近オフにウェイトトレーニングを始め、その時はベーシックなスクワットからしっかり取り組んだということを書いていた雑誌を最近目にしました。
それ以降も安定して高いパフォーマンスを発揮して好成績を収めていますから、高いパフォーマンスを発揮するためには筋力だけでなく、持久力、スピード、柔軟性、身のこなしなど様々な要素が高いレベルで揃えなければなりませんが、トレーニング歴が浅いということは伸びシロが大きいとも言えます。
トレーニングの可動域
トレーニングの可動域というとその競技動作に近い可動域でやるという考え方もありますが、補強運動として行うならそういったことを考え過ぎずに適切なフォームを維持できる範囲内で可動域を大きく使って行うことです。
スクワットの深さと垂直跳びの向上についての研究結果を見せていただきましたが、垂直飛びで沈む程度の深さでのスクワットを行うより、ディープスクワットを行う方が向上率が高いという結果が出ていました。
トレーニングプログラムの作成
レジスタンストレーニングのプログラムを作成する際にはボディビル、ウェイトリフティング、パワーリフティングといった3大バーベル競技のプログラムデザインのエッセンスを上手く活用することが良いのではないかと考えられます。
筋肉を肥大させるのであればボディビルのトレーニングの考え方を活用するのが良いと思いますし、爆発的なパワーを養うのであれば筋肥大を目的としたボディビル的なトレーニングよりも重いものを楽々持ち上げるウェイトリフティングのトレーニング法を活用した方が良いということになります。
やはりそれぞれにメリット・デメリットがあるわけですから指導する側がその考え方を理解して個々のレベルに合わせて応用するといった考えでトライすることが求められるということです。
ウォーミングアップと静的ストレッチ
ウォーミングアップでストレッチングをし過ぎると良くないから必要ないというのが最近再び言われるようになっています。
テレビやネットでそう言っていたからとそれをそのまま使うのは指導者としてはあまり好ましいとは言えません。
どうしてそうなるのかという背景を考えることも重要です。
傷害予防という観点でストレッチングを考えるとストレッチングをすることで傷害を予防できるという科学的根拠は今のところありません。
可動域の向上という面で考えると硬くなっている筋肉が解れることで可動域は改善しますのでこれは効果があると言えます。
パフォーマンス向上に関しては筋力・パワー・バランスという面でダウンしたという研究結果もあります。
ただし、30~40秒程度ならリスクはないということです。
ということは、傷害予防の効果はないが可動域改善という効果はあるので可動域が小さいような人は30~40秒程度のストレッチングを行って大きな可動域でトレーニングできるようにするという目的では使えるということになります。
やはりメリット・デメリットを理解して目的にあわせてどのように使うかが大切だということが言えます。
エクササイズの選択
エクササイズの選択における絶対的な分類法はありませんが、エクササイズは山ほどあります。
1から考えるとなるとそれだけで時間がかかり効率があまり良くありません。
そう考えるとある程度自分なりにパターンを作成しておいた方が指導はやりやすくなります。
今回の講義の中では、“動作パターンによる分類”、“役割・位置づけによる分類”などを紹介していただきました。
エクササイズの並べ方
基本原則としては、
重要度の高いものから低いもの、パワー系→ストレングス系→筋肥大・持久力系、多関節→単関節、多くの筋群を使う→少ない筋群を使う、全身→下半身→上半身といった並べ方があります。
優先度の高いもの、集中力を要するようなものはできるだけフレッシュな状態で取り組むのが良いということになります。
強度設定
トレーニングの効果を引き出す上で最も重要なのは『強度の設定』です。
強度設定にも『%1RM』を基準にしたものと『レップ範囲』に基づいた強度設定もあります。
それぞれにメリット・デメリットがありますから、指導対象者の体力、トレーニングレベルなどをよく把握した上で最適なものを作成する指導者のアイデアが求められてきます。
その他にも持久力トレーニングのプログラムデザインの考え方についてのお話も聞かせていただきましたが、改めて思ったのはトレーニングには絶対的なものはなく、いろいろなトレーニング法を知り、その考え方、メリット・デメリットまできちんと理解して、自分の指導対象者に合わせてどのようにそれを活用するかをよく考えて実践→反省・修正→再トライを繰り返しながら自分なりの哲学を持ってトレーニングプログラムを作成、指導することが最も重要で、1年や2年勉強した程度でわかるほどトレーニングというのは浅いものではないということです。